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消化器がん・肝炎免疫研究グループ

研究概要

我々のグループでは、消化器がん並びにウイルス性肝炎における免疫反応を解明し、新しい治療戦略として臨床応用を目指しています。
ヒトが本来持ち合わせている免疫機構はは異物を排除しようとする生理的システムです。がんや肝炎ウイルスはヒトにとっては異物ですので、これらを排除しようとする免疫反応が生理的に発生します。しかし、様々な理由で本来のがんや肝炎ウイルスに対する免疫反応は抑制されていて、本来の力を発揮することができない状態になっています。このメカニズムを解明し、免疫反応を強めることでがんやウイルス性肝炎の治癒をめざす取り組みをしています。
免疫反応は多くの種類の細胞と段階によって成り立っています。私たちはこのうち樹状細胞による抗原提示とエフェクターT細胞による標的細胞への攻撃に着目し、研究を行なっています。

研究1

樹状細胞による抗原提示能の強化

免疫システムはナチュラルキラー細胞などによる自然免疫を経て、T細胞やB細胞による病原体(抗原)を標的とした適応免疫による反応へ至ります。適応免疫の始まりにはまず病原体(抗原)の一部を免疫システムが認識する必要があります。樹状細胞はがんや肝炎ウイルスを細胞内に取り込み分解し、T細胞が認識しやすいペプチドの状態で細胞表面に出します(抗原提示)。これをT細胞が感知することで病原体(抗原)を標的とした免疫反応が引き起こされるのです。
私たちはまず、肝細胞癌患者における樹状細胞機能の強化を目的に、血液中の単球から樹状細胞を実験室で誘導培養し局所治療後の腫瘍内に注入する治療を開発しました。
誘導樹状細胞を免疫調整薬であるOK-432にて刺激し、これを肝動脈塞栓術あるいはラジオ波焼灼療法後の腫瘍に注入することで腫瘍特異的な免疫反応を強めることが可能であることを実験的、また臨床試験にて示しました。

近年抗ウイルス薬の目覚ましい進歩にてC型肝炎ウイルスの治療が確実に達成できるようになってきました。一方でB型肝炎ウイルスを肝細胞から排除するにはまだまだ克服すべき課題が多く、これを達成するために私たちは免疫治療の応用を考えています。
私たちはまずB型慢性肝炎患者の樹状細胞機能を評価しました。その結果B型慢性肝炎では樹状細胞の抗原提示機能が低下しており、十分な抗ウイルス免疫が働いていないと考えられました。遺伝子発現解析の結果、CD130の遺伝子発現低下が原因として挙がり、実際に樹状細胞にCD130遺伝子を導入すると機能が回復することを確認しました。製薬可能な薬品をスクリーニングしたところOncostatin M処理をすることでB型慢性肝炎における樹状細胞機能が回復することが示されました。

研究2

抗原特異的T細胞反応の強化

私たちはがんを標的としたCD8陽性T細胞反応を強化するために、がん細胞が発現する抗原ペプチドをスクリーニングしてきました。この結果肝細胞癌ではAFP、hTERT、MRP3、SART3由来のペプチドを新たに同定し、膵癌ではp53、hTERT、WT-1、VEGFR2由来のペプチドが標的として最適であることを確認しました。AFP、hTERT、MRP3、SART3由来ペプチドをワクチン製剤として肝細胞癌患者に投与する第I相臨床試験はすでに終えており、その安全性と免疫反応を誘導する有効性を確認しました。また、これらの臨床試験での検討において各種ペプチド抗原に特異的なT細胞受容体遺伝子の同定にも成功してきました。これらの遺伝子を導入したT細胞( 遺伝子改変T細胞)は肝癌細胞を攻撃することが確認されています。
併せてB型肝炎ウイルス由来抗原ペプチドの同定も進めており、HBs抗原とHBコア関連抗原由来のペプチドに対する免疫反応が臨床検査所見を反映していることを示しました。

研究3

新規免疫療法開発に向けて

現在私たちは、樹状細胞の機能強化と抗原(ペプチド)ワクチンを合わせた新規免疫療法の開発に取り掛かっています。さらに、腫瘍やB型肝炎に特異的なT細胞受容体を同定・機能評価することでこちらも遺伝子治療への応用を目指しています。今は動物モデルでの安全性や有効性の検討の段階ですが、近い将来に実際の臨床に応用できるよう研究を進めています。

参考
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    Inada et al. Hepatology. 2019

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